東京地方裁判所 昭和25年(モ)3110号 判決
債権者 中本静 外十二名
債務者 富士精密工業株式会社
一、主 文
昭和二十五年六月三十日当裁判所が昭和二十四年(ヨ)第三三一三号仮処分申請事件につきなした仮処分決定中債権者J、G、N、F、E、Q、C、Tに関する部分はこれを次のとおり変更する。
債務者の前主富士産業株式会社が右債権者らに対して昭和二十四年十一月五日付を以つてなした解雇の意思表示は仮にその効力を停止する。
右決定中債権者A、B、H、M、Kに関する部分はこれを取消す。
右債権者A、B、H、M、Kの本件仮処分申請を却下する。
訴訟費用はこれを五分しその三を債務者の負担としその余を債権者らの連帯負担とする。
本判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。
二、事 実
第一、債権者代理人は、昭和二十五年六月三十日当裁判所が昭和二十四年(ヨ)第三三一三号仮処分事件につきなした仮処分決定はこれを認可するとの判決を求め、その原因として次の通り述べた。
一、富士産業株式会社は資本金五千万円の特別経理会社で、全国に十七箇所の工場事業場を有し約六千名の従業員を雇つてその事業の経営をしていたもので、その工場の一として東京都杉並区宿町八十八番地に荻窪工場を有しbを工場長として発動機映写機ミシン等の製造をしていたところ、企業再建整備計画に基き昭和二十三年七月十三日第二会社の一として債務者富士精密工業株式会社が設立され、同会社が右荻窪工場の施設その他従業員に対する雇傭関係を承継したものである。
二、債権者らは、別紙第一表「入社年月日」欄記載の日に右富士産業株式会社(以下会社という)に雇われ、その荻窪工場において同表「職場職種」欄記載のとおり勤務してきたものであり、同工場の従業員をもつて組織されている日本労働組合総同盟金属労働組合同盟関東金属労働組合富士産業荻窪支部(以下組合という)の役員乃至組合員であつた。
三、しかるに、会社は、荻窪工場の経営状態の悪化を防止し工場の再建をはかるためには人員整理を行うよりほかないとして、従業員七百四十二名を五百三十名に減縮する再建案をたて、これを昭和二十四年十月二十九日組合に提示したが、組合はこれに反対し撤回を要求したので、会社は交渉を打切り、同年十一月五日附を以て債権者らを含む百九十八名の従業員に対し同月十二日限り解雇する旨の意思表示をなした。
四、しかしながら、右解雇の意思表示は次の如き理由で無効である。即ち、(イ)会社と組合の間では、昭和二十一年四月十八日存続期間の定めのない労働協約が結ばれており、その後この協約につき解約の申入もなされておらず、また破棄の合意も成立していないので、現にこの協約は有効に存続しているのであるが、その中には「採用解雇人事任免は組合の承認のもとに行うこと」という条項があるに拘らず、会社は、右解雇につき組合の承認を得ていない。(ロ)会社は、右解雇につき解雇基準を設けているが、債権者らはいずれもこの基準に該当していない。しかるに、これを敢て解雇したのは、債権者らが組合の役員または積極的分子として組合活動をしていたので、人員整理に名をかり債権者らを排除して組合の弱体化をはかろうとする意思のもとになされたもので、債権者らに対する前記解雇の意思表示は不当労働行為としてその効力を生じないものである。
五、債権者らは、前記解雇が無効で現に債務者会社の従業員たる地位にあることの確認を求むる本案訴訟を提起しているのであるが、会社は、前記解雇を有効とする前提のもとに、債権者らに対し従業員たる待遇を停止し、債務者会社もこれを踏襲しているので、現下の事情のもとにおいてかような措置を受けるのは最低限度の生活を維持することも困難で本案判決の確定をまつていては回復出来ない損害を受けるので、仮に従業員たる地位の設定を求めるため本件仮処分申請に及んだものである。
第二、債務者代理人は、昭和二十五年六月三十日当裁判所が昭和二十四年(ヨ)第三三一三号仮処分申請事件につきなした仮処分決定はこれを取消す、債権者らの仮処分申請を却下するとの判決を求め、次の通り述べた。
一、債権者ら主張の一乃至三の事実はこれを認める。しかしながら債権者らは会社が弁済のため供託した前記解雇予告手当の還付を受けその後昭和二十五年二月頃退職金の残額をも受領している。債権者らはこれを賃金の一部として受領したというが、債権者らに充当の権利はもとよりなく、その受領によつて自ら解雇を承認したものというべきであつて、本件仮処分命令の申請をなす正当な利益がないというほかない。従つて債権者らの本件仮処分申請はこの点において却下せらるべきである。
二、債権者ら主張の日時労働協約を締結しその中にその主張の如き条項のあることは認めるも、右協約が現に有効に存続することはこれを争う。労働協約に三年を超ゆる有効期間を定めることのできないのは旧労働組合法(昭和二十年法律第五十一号)の規定するところで、これによれば存続期間の定めのない労働協約は三年を超えて有効に存続し得ないものであり、債権者主張の労働協約は昭和二十一年四月十八日存続期間の定めなく締結されたものであるから、昭和二十四年四月十八日を以て当然消滅し組合及び会社共にこれを承知していたものである。
三、債権者ら主張の不当労働行為の事実は否認する。
(一)、債権者ら主張の荻窪工場は戦時中は中島飛行機株式会社の工場として航空機発動機生産の治工具工場及び、補機工場として運転されていたが終戦と同時に閉鎖され間もなく富士産業株式会社(以下会社という)が設立されてこれを引つぎ平和産業に転換再開されたものである。
同工場は賠償工場の指定を受け同会社も特別経理会社に指定され企業再建整備法による再建設備計画中昭和二十四年二月八日集中排除の指定を受けて再び再建整備案を樹立しなければならなかつたのである。而して集中排除の指定を受ける以前会社において作成した再建整備案によれば経営を十一分割する計画であつたので荻窪工場は昭和二十二年五月以来会社内の一ブロツクとして独立採算制をとり作業資材販売金融人事に至るまで独自の経営を行つてきた。同工場は主要生産品とするヘツセルマン型発動機等が相当の成績をあげ一応再出発に成功するかに見えたが昭和二十三年春を機として右発動機も売行不振となり売掛代金の回収は困難となり工場経営が悪化し更に所謂経済九原則、ドツジライン等による経済界の変動の影響を受け有効需要の低下による売行不振政府予算の削減による運輸省関係の受註の消滅赤字融資の停止等により経営は困難を増し昭和二十四年九月末において未払金二千三百万円借入金二千九百万円に達した。同工場はこの間に処し企業の合理化を目的として幾多の方策を実施し入金の増大を確保するため営業面の強化等の努力を試みたが、受註量は同工場の規模を充すに足らず設備の更新技術の改善を行うにはこれに必要な融資の得られない実情にあり、結局同工場としては冗員整理による再建が唯一の方途として残されているに過ぎない状況となつた。そこで同工場では完全雇傭の方針を一時放棄する外なく市場面、操作可能な資金面採算面より生産品目並に月産数量を検討した結果従業員七百四十二名中約二百三十名の整理を必要とするとの結論に達したのである。
(二)、右人員整理を実行するに当り、会社は、整理予定人員を整理後のあり方配置転換を考慮しつつ各職場に割当て整理人員数を確定し、(1)工場秩序を乱す者(2)会社業務に協力せざる者(3)職務怠慢なる者(4)技能低位なる者(5)事故欠勤多き者(6)出勤常ならざる者(7)病気による長期欠勤者(8)配置転換困難なる者(9)業務縮少のため適当な職なき者(10)その他経営効率に寄与する程度の低い者と言う十項目の整理基準を定め、各課職場長をして、この基準に該当するや否やに着眼しつつ全従業員の考課表を作成せしめ、これを重要な資料の一として比較検討した上各課職場毎に序列を附し、その下位なる者から割当てた一定数を解雇することとしたのである。
そして債権者らにつき
A (1) (3)(4) (8)(9)(10)
B (1)(2) (8)(9)(10)
H (1)(2)(3)(4) (9)(10)
M (1)(2)(3)(4) (8)(9)(10)
J (1)(2)(3) (9)(10)
G (1)(2)(3) (9)(10)
N (3) (8)(9)(10)
F (1)(2) (8)(9)(10)
E (2)(3) (10)
Q (2) (4)(5) (9)(10)
C (1)(2) (8)(9)(10)
T (1)(2) (8)(9)(10)
K (8)(9)(10)
のように前記基準に該当する事実があるものとして解雇したものである(尚右基準番号(1)(2)(3)(4)は、乙第二十号の一乃至二十一の元考課表を除くその他の疏明資料及び原決定においては順次(3)(4)(2)(1)に該当する)。従つて、前記解雇は正当であつて不当労働行為となる余地はない。
四、債権者ら主張の仮処分の必要は否認する。なお
(一)、債権者らの本件仮処分申請につき昭和二十五年六月三十日仮処分決定があつて、債権者らは会社に復帰するや会社側職員引きつづいて債務者会社側職員に対し不穏の言動を吐き、事毎に闘争的態度を示しているのみならず出勤率も極めて悪くて、債権者らの復帰が債務者会社の従業員全体に与える影響は甚大なるものがあり折角向上して来た生産が再び低下する虞が多分にある。従つて本件仮処分申請の認容されることによつて受ける債務者会社の損害は、右申請が許されざることによつて債権者らが蒙る損害に比し遙に大であるから、債務者会社は本件仮処分決定を取消すべき特別の事情あるものと信じ、異議の理由として併せて主張するものである。
(二)、債権者らは、昭和二十五年一月十八日十九日の両日、裁判所の許可を得て、会社の全従業員の考課表(乙第二十号その他)を閲覧するや、会社幹部等より公表せざるよう厳重なる注意ありこれを諒承したるに拘らず、人事極秘の取扱いたるべき右考課表の記載内容を各課職場毎に一覧表に作成し富士産業荻窪工場失業反対同盟の名義で謄写印刷し、これを同月二十五日より二十九日までの右工場正門前において全従業員に配布するの不信極まる暴挙を敢てした。会社はこれを就業規則第四十条第四号に該当するところの行為と判断していたが、原決定によつて債権者らの仮の地位が保全されたので、昭和二十五年七月二十日債権者らに対し本案裁判において、会社の債権者らに対してなした昭和二十四年十一月十二日附解雇が無効なることが認められその判決が確定することを停止条件として懲戒解雇に処する旨意思表示を為しその頃それぞれ債権者らに到達せしめた。従つて債権者らが本案裁判において従業員たる地位が確定するときは当然懲戒解雇せられることになるから仮処分の必要性はもはやなくなつたものといわねばならない。
第三、債権者代理人は、債務者の右主張に対し次のとおり主張した。
一、債権者らが、債務者の主張するように、予告手当並に退職金を受領したことは認めるが、解雇の承認の点は否認する。退職金等を受領しても、賃金の一部として受領しているのであつて、解雇の承認にならない。
二、債権者らが、仮処分決定により会社に復帰した後、債務者の主張するように工場秩序を乱し他の従業員に悪影響を及ぼしたこと及び債務者の受ける損害が債権者らの受ける損害に比し甚大であることは否認する。債権者らが従業員たる待遇を停止されることによつて受ける損害は金銭賠償をもつては償うことのできないもので、債務者の受ける損害に比較しようもないほど甚大であつて、債務者の主張する仮処分取消の事由は理由がない。
三、債権者らが債務者の主張するように、考課表を謄写し従業員に配布したこと及び会社がこれを理由に債務者の主張するように条件付解雇の意思表示をしたことは認めるが、これによつて仮処分の必要が消滅したことにはならない。本案訴訟において敗訴することは、債務者が欲すれば何時でもなし得ることで、かような条件は純粋随意条件であるから、この条件を附した前記解雇の意思表示は無効である。
仮にこの意思表示が有効であつても、本案訴訟において敗訴が確定するには日時を要し、その間仮処分の必要あることは言うまでもない。
第四、(疏明省略)
三、理 由
第一
訴外富士産業株式会社が、債権者の主張する荻窪工場を有し、同工場において、発動機映写機ミシン等の製造をしていたところ、企業再建整備計画に基き、昭和二十五年七月十三日第二会社の一として、債務者富士精密工業株式会社が設立され、同時に同会社が右工場の施設その他の権利義務を承継し従業員に対する雇傭関係を承継したこと、債権者らが、別紙第一表「入社年月日」欄記載の日に右富士産業株式会社に雇われ、右工場において同表「職場職種」欄記載のとおり勤務してきたこと、及び右富士産業株式会社(以下会社という)が、昭和二十四年十一月五日附をもつて、債権者らを含む百九十八名の従業員に対し、同月十二日限り解雇する旨の意思表示をなしたことは、いずれも当事者間に争のないことである。
第二
債務者は、債権者らは右解雇にともなう予告手当退職金を受領し右解雇を承認していると主張するので、先ずこの点の判断をする。
債権者らが、債務者の主張するように予告手当並に退職金を受領したことは当事者間に争のないところであるが、解雇の承認は、解雇の意思表示によつて生じた係争を終了させる旨の意思表示乃至は雇傭契約の合意解約の意思表示で、当事者間の契約と解すべきものであり、予告手当退職金の受領が暗黙に右意思表示のなされたことを推定せしめる場合のあることは、これを否定し得ないが、債権者らが退職金等を受領したのは、いずれも本件仮処分申請後のことであることは当事者間に争のないところであつて、右解雇の効力を争つている時のことであるから他に右意思表示を暗黙になしたことをうかがうに足る事情の疏明のない限り、右退職金等の受領のみをもつて、解雇を承認したものと推定することはできないものと言わねばならない。他に解雇の承認を認めるに足る疏明がないので、債務者のこの点の主張は採用できない。
第三
債権者らは、右解雇の意思表示は労働協約に違反してなされ、無効であると主張するので判断する。
債権者らの主張するような存続期間の定めのない労働協約が昭和二十一年四月十八日締結されたことは当事者間に争のないところであるが、旧労働組合法のもとにおいては、かような協約は、その存続を欲しない当事者の一方的意思表示によつて、これを終了させることができるものと考えられるところ、成立を認め得る乙第三十七号によれば、右解雇の意思表示の以前に会社が右協約を失効したものとして不遵守を表明し、組合もまた失効したものとして取扱つてきたことが認められるので、右協約は、右解雇の当時においては既に失効していたものと言うべきで、この協約に違反することを理由とする債権者らの主張は採用の余地がない。
第四
債権者らは、右解雇の意思表示は所謂不当労働行為で無効であると主張し、債務者は、会社は整理基準を定め債権者らがこれに該当するため解雇したもので不当労働行為でないと主張し、更に債権者らは右基準該当をも争うので、以下順次判断する。
一、成立を認め得る乙第二乃至第六号第二十五号及び証人a同bの各証言を綜合すれば、債務者の主張するように、昭和二十四年九月末頃に至り荻窪工場においては、経営に支障を生じこれを打開するには約二百三十名の人員整理の必要已むなきに至つたことを一応認めるほかなく、これを左右するに足る疏明はない。
二、右疏明資料と成立を認め得る乙第十号第十九号一乃至六第二十号一乃至二十一と証人a同bの各証言を綜合すれば、会社は、前記のように人員整理の必要のため、その実施に当り、昭和二十四年九月末頃再建計画によつて算出された整理予定人員を整理後のあり方配置転換を考慮して各職場に割当て確定し債務者の主張するような(1)乃至(10)の整理基準を設け、これに従つて各課長各職場長をして所属従業員の考課表並にこれに基く序列を作らしめ、各課各職場ごとに序列低位なるものより右所定数までを解雇することにしたこと、右考課表には、各従業員につき、技能、作業に対する努力、勤怠、業務に対する協力性職場における重要度、応用力、職場規律、健康状態、総評の九項目につき普通を丙とし甲乙丙丁戊の採点及び各課各職場ごとの序列順位が附され更に右基準該当の番号が附記せられたこと、右考課表の記載は一応担当課長または職場長においてなされた後、工場長を含めての各課長各職場長の数回の協議により訂正されて最終的なもの(乙第二十号の一乃至二十一)が確定したこと、会社は、右のように人員整理の実施方法を定めたのに拘らず、従業員に対する影響を考慮し、同年十月二十八日発表した「工場再建の方途に就いて」と題する書面(乙第四号)において、人員整理の意図を述べその整理基準として前記基準の順位を変更して、(1)技術低位なるもの、(2)職務怠慢なるもの、(3)工場秩序を乱すもの、(4)会社業務に協力せざるもの、(5)乃至(10)は前記基準と同様に示し、これに従つて厳正に人選し実施する旨を明らかにしたこと、債権者らについては別紙第二表のような考課表が作成され序列順位低位なるものとして基準に該当するものとされ解雇に当るものとされたことが一応疏明せられる。
而して、右考課表をみるに、採点その他の記載が鉛筆書であり、訂正されたり、消して書き加えられたりした形跡のあることは明らかであるが、これらの訂正等は前記協議の際なされたものであることが、前記疏明資料によつて一応認められるので、特段の事情の疏明せられない限り右鉛筆書訂正等をもつて直に右考課表の記載を措信し難いものと言うことはできない。然しながら、右考課表の採点、序列、その他をみるに総評以外の項目に丁または戊のあるときは総評は概ね丁または戊で、他の項目の最低点が総評に一致する場合が多いが、他の項目の最低点より総評が上位のこと例えば技能が丙でも総評が乙であり職場規律が乙でも総評が甲である場合もあつて、総評が如何なる見地から採点されたかは、これを明らかにする何等の疏明もなくまた、序列の順位も概ね総評と一致するが中には総評の順位に従わないものもあつて、結局如何なる見地から序列の順位が附せられたかを明らかにする何等の疏明もないこと、及び前記のように従業員全員につき多項目を含む右考課表が、人員整理のため各課各職場に整理人員が割当られた後急拠作成されたことを併せ考えれば、特別の事情の疏明のない限り、勤怠、健康状態等の項目はともかく少くとも会社が被解雇者にとつて解雇の重要なる事由に当るものと考えていた項目及び総評、序列については、他にこれを裏づける疏明のない限り、右考課表の記載だけをもつて妥当なものであつたとの心証を惹起せしめることは困難であると言わねばならない。なお、右考課表に附せられた基準の番号も、数の順位によるものでなく如何なる見地からなされたかは、十分には明らかでないが右基準番号の記載と項目の採点並に弁論の全趣旨に照せば、一応会社が当人の解雇事由として重要なものと考えた順序に従つたものと推認せざるを得ない。
三、よつて、債権者らが右基準に該当するか否かを判断する。
債務者は、債権者らが右整理基準に該当するものと主張し、その提出する、いずれも成立を認め得る乙第十一号の一乃至十一、第二十号の一乃至二十一、第二十二号の一乃至四、同号の五の(イ)乃至(ヘ)、第二十四号、第四十三号及び証人a同bの各証言等の疏明資料によれば、債権者らの多くに共通する事実として、工場秩序を乱したものとして国電スト応援のための職場放棄その他の事実をあげ、更に債権者らの各個人について技術低位なるものその他としての種々の事実をあげ、債権者らの考課表における採点序列等をあげているので順次判断する。
(甲)、工場秩序を乱すものとの基準について
(一)、右疏明資料によれば、工場秩序を乱すものとして、(イ)債権者B、J、G、F、C、Tにつき昭和二十四年二月十一日職場デモの煽動及び参加、(ロ)債権者A、B、M、J、C、Tにつき同年五月十三日以降における職場に許可なくビラを貼つたこと、(ハ)債権者A、B、H、Mにつき同年六月十日国電スト応援のための職場放棄、(ニ)債権者A、M、J、Gにつき同年七月三十日の職場離脱、(ホ)債権者B、M、J、Gにつき同年八月六日の職場離脱、(ヘ)債権者B、M、J、G、C、Tにつき同年八月八日の職場離脱をあげているのであるが、右疏明資料中には十分な根拠の明らかにされていない伝聞や日時場所を欠き抽象に過ぎ単なる意見とみるほかないものもあつて、これらの疏明資料は、債権者らの提出する次の疏明資料と比較対照するときは、容易に心証を惹起するに由ないものというほかないものもあつて、右疏明資料と債権者らの提出するいずれも成立を認め得る、甲第十乃至第四十二号、第四十五、六号、第四十八、九号、第五十二乃至第五十四号、第五十六号、第五十八号及び債権者ら(Qを除く)の各本人訊問の結果を綜合すると、
(イ)、債権者B、F、C、G、J、Tにつき昭和二十四年二月十一日午前八時始業後工作課第二職場において、前日の委員会報告事項について職場大会が開かれ、同大会において大衆デモが決定されたが、当時専従者であつた債権者B同C及び同職場のブロツク長として職場責任者の一人であつた債権者Fは、いずれも従業員の先頭に立つてデモ行動に移り、職場担当者の阻止を排して従業中の第一、第三、第四職場に進入し、債権者Tは、職制より阻止されたに拘らず、その検査係における職場を放棄して右デモに参加し、右デモが第三職場に進むや債権者Gは同職場の従業員に対し参加方を訴えたるも遂に同職場の従業員は参加するに至らなかつたこと。(右Fが、職場大会を解散せよとのp次長の命を故意に大会に伝えず大会を続行せしめたこと、右F、B、Cが従業員を煽動したこと、右G及び債権者Jが右デモに参加したことは、いずれも、これを認め得べき疏明が十分でない。)
(ロ)、債権者A、B、F、J、C、Tにつき、昭和二十四年五月十三日入場時刻より早く午前七時十分頃債権者B、M、H、J等は工場内に富士荻細胞名義の宣伝ビラを貼付し、右B、M、Hに対し、総務課長より、賠償工場であり許可なくビラを所定の場所以外に貼付すべからざることを注意し禁止したるに拘らず、五月二十日頃右M、L、債権者T同Q同J同C同Bは午前七時頃入門し右同様宣伝ビラを貼付し、右Mは職場内の衝立にビラを貼付し同年七月十五日q職場長より注意されたるに拘らず同月二十六日、八月十一日、八月十三日「アカハタ」富士荻細胞のビラを貼付し、右qの注意に従わざる旨言明していたこと。
(ハ)、債権者A、B、H、Mにつき
同年六月十日国電ストに際し、工作課第四職場の債権者A、B、H、Mは早退してこれが応援に参加せんとし、右M、Bにおいてq職場長に対し国電スト応援のための早退の許可を求め拒絶されるや、更に同人の不在中同職場長附渡辺要に同様の許可を求め再び拒絶されるや、その不在中、その事務員Lと計り同人がかねて保管していたqの印を右債権者らの帰宅を理由とする出門票に押捺し、右債権者らはこれによつて早退して国電ストの応援に赴き、その早退に際し右Mは工場床上に「吾等日本共産党富士荻細胞は国電スト応援のため職場を放棄する」と白墨をもつて大書したこと。
(ニ)、債権者A、M、J、Gにつき、
同年七月三十日午前十時頃工作課第四職場においては、職場長が給料支払いについて従業員に説明した後、その許可を得て、職場大会が開かれ、全員で工場長または工場幹部に交渉することが決議されたが、債権者A、Mは作業中職場長の許可なく職場をはなれ従業員の先頭に立つて企画室に押しかけ種々押問答の末本館裏側入口で第三職場のものと合流し、工作課第三職場においては職場長の許可なきに職場大会が開かれ、右同様の決議が為され、債権者G、Jは従業員を引きつれ工場長に面会すると称して職場を離脱し、その際右Qは第四及び第一職場に対し「第三職場は只今から工場長に交渉に行く」と大声で呼びかけ、工場長不在のため企画室に押しかけ前記の如く第四職場のものと合流し、右債権者らはa工作課長の職場へ帰れとの指示にも拘らず坐り込み給料支払の交渉をしたこと。
(ホ)、債権者B、M、J、Gにつき同年八月六日午前九時頃債権者Bは、q職場長に対し、職場委員とブロツク代表各二、三名と共に職場大会の決議により工場幹部に交渉に行くため職場離脱の許可を求め、同職場長により拒否されるや、組合として職場闘争の一環として認められていると称し、同人及び債権者M、G、Jは代表約二十名と共に、職場をはなれ本館に押しかけ、途中a工作課長に逢うや右はB、M、Lと共に同人を取りまき質問がある等連呼して通行を妨げたこと。
(ヘ)、債権者B、J、G、C、Tにつき、同年八月八日午後二時頃債権者B同H等の妻三名が、会社に来て「区役所へ配給の掛売交渉に会社も参加せよ」と申出たのに対しr次長s営業課長が応接したが、その際債権者A、B、G、C、T、J及びL外二名は、許可なく職場を離脱し右応接の室に出入し大声をもつて声援し、右r、sが室を去らんとするやこれを妨げたことは一応これを認めることができるが、その他の事実はこれを認めるべき疏明が足りないものと言わねばならない。
(二)、よつて、右事実をもつて前記債権者らを「工場秩序を乱すもの」との基準に該当せしめることの当否を順次判断する。
一般に右(イ)のような就業時間中のデモが、職場離脱となり、職場の規律、秩序を乱し、業務運営を阻害することは、言うまでもないところであるが、前記疏明資料のほか、成立を認め得る乙第二十七号第三十号甲第四十一、二号第五十号第五十一号によると、当時組合においては金七千五百円の保証給を要求して会社と交渉中であり、たまたま組合執行部の中に意見の対立もあり、まして、当時給料の遅配もあつて、一般従業員もその成行きに非常な関心をもつていたこと及び第二職場においては、職場大会を開き右保証給の問題につき討議したが、同職場の従業員Iより、会社幹部及び組合執行部にハツパをかけろそれにはデモがよいとの発言があつて、直にこれを決議し、組合執行部とは関係なく多数従業員がデモに移つたこと並にB、Cは右決議後第二職場に来てデモに参加したことの事情が一応認められ、かようなデモが何者かの煽動により起り得ることは容易に推認し得るところであり、かような者の行為が工場秩序を乱すものに当ることは勿論であるが、前認定の事実は、煽動または右Iと通謀していたとの疏明のない限り、唯多数の従業員と共にデモに参加したという事実を示すに止まり右債権者らが他の残存する従業員と区別して右デモにつき特に工場秩序を乱したとの基準に該当せしめるに足りない。
尤も債権者B、C、Fがこのデモの先頭に立つたことは他の従業員と区別されるところではあるが、専従者或は職場のブロツク長として、かような形で職場の決議に従うことも余儀ない場合も考え得るので、これをもつて同人等が職場大会の決議以上に従業員を指導し或は煽動したとなすには、疏明が足りないものとなさざるを得ない。債権者Tが職制の制止を排して他の職場から参加し、債権者Gが自己の職場においてこのデモに参加すべきことを訴えたことは、いずれもこのデモに対し積極的であつたことを示すに足ると雖既にデモが発生し異常な雰囲気に包まれていたことであり、これをもつて、他のデモに参加した従業員と区別して特に工場秩序を乱したとなす根拠に乏しいものと言わざるを得ない。
右(ロ)のように、職場内のビラの貼付が禁ぜられたるに拘らずこれを犯してビラの貼付をなすことが職場規律を乱すことは、これを否定し得ないが、ビラの貼付或は配布等は労働者の活動の最も通常な方法の一であつて、これが職場規律の違反になるや否やは、その場所、貼付のときの状況、頻度、ビラの内容、ビラ貼付に対する会社側の態度等を考慮して判断しなければならないが、債権者J、C、Tについては、総務課長の注意が徹底していたかどうか明でなく、また同人等及び債権者Bのビラの貼付が屡々であつたかどうか明でないこと、又後に判断するように昭和二十三年十一月頃から翌年度にわたる給料の遅配状況にかんがみ、当時の労使関係において、かかるビラ貼付行為そのものが他の規則違反と異別に取り上げられる程の工場秩序違反と考えられていたかどうかについては、これを肯認する疏明に乏しいこと、しかも会社が前記疏明資料において債権者H、Qにつき右事実を解雇事由としてあげていない事情を綜合すれば、Mを除く右債権者等の行為自体は工場秩序に触れないとはいえないにしても「職場規律」の適用上他の残存従業員と多く区別すべき程のものとは認められずその程度は軽微と言わざるを得ない。然しながら、債権者Mについて認められる右事実は、前認定のようにその頻度や特別の注意を無視していることその他において前記債権者らと甚しく異り工場秩序を乱したとされてもやむを得ないものと言わねばならない。
前記(ハ)のように、早退したことは、債権者らが正当な許可を得て早退したものとは認め難く、また正当な事由とも認め難いから、結局許可なく職場を離脱したものと言うほかない。また、債権者らが職場を離れるに際し、国電スト応援に赴く旨を白墨で大書したことは、これをもつて他の従業員を煽動するものとなすには、疏明が足りなく、自己の行動を誇示する域を脱しないものと認めるほかない。蓋し、前記疏明資料によれば、当時組合は従業員に対し国電スト応援に個人参加することを望まざる態度を示していたこと、債権者らが常に結束して他の従業員と別の行動をとることも多く、組合執行部に対しあきたらざる態度を示すことも多く、かようなことが一般従業員に明であつたことが、認められるので、右のように大書することをもつて、直に煽動と認めるには疏明の足りないものと言うほかない。而して、債権者らの以上の行動は、当時早退の許可は全く形式的にすぎなく申請があれば形式的事由で随時許されていたとか職場の規律が弛緩していて就業規則も十分には遵守されていなかつた事情等の特別の事情の疏明のある場合には実質的に事故欠勤の域を多く出ないものと考え得る場合もないではないが、かような特別の事情の疏明のない限り、債権者らの以上の行動が、公然就業規則を軽視し剰えこれを就業中の多数従業員に誇示し工場秩序の上に多大の影響を与えるものであることは、否定し得べくもなく、これをもつて、工場秩序を乱すものとされても已むを得ないところと言わざるを得ない。従つて債権者らを、右行動によつて、工場秩序を乱すものとの基準に該当するものとしたことを不当とするに由ない。
前記(ニ)のように、許可なく職場をはなれることは、職場離脱として職場規律を乱すものというほかないが、前記疏明資料によれば、昭和二十三年十一月頃より給料の遅配があつて、昭和二十四年五月乃至八月頃はとりわけそれが甚しく一箇月の給料が七、八囘に分割して支払われ、それも必ずしも期日に支払われない状況にあつたこと、七月三十日は土曜日で、金千五百円の支払の約束の日であつたが、その支払のないことの説明があつたので従業員は甚しい失望と不安に陥り動揺したこと、かような事情に対し組合執行部において従業員を納得安心せしめるような特別の措置をとらなかつたこと等の事情が認められ、かような事情の下において、従業員が給料支払の確保されることを求めんとするのは無理からぬことで、これがため職場大会を開き、工場幹部に交渉せんと決議し交渉に赴くことも、勿論当然のことではないが、事情酌むべきものありというほかなく、給料遅配に端を発していることを思えば、これをもつて職場規律違反として解雇の事由とするは、公平の観念に副わないものというほかない、債権者らはいずれも従業員の先頭に立ち工場幹部との交渉に当りまた債権者Gは他の職場に呼びかけているが、前記疏明資料によれば、債権者らは職場委員として日頃組合のため活動していたことが認められるので、他の従業員より多く活動することも無理からぬことで、特に煽動等の認められない限り、これを他の従業員と区別して前記基準に該当するとなすには疏明の足らないものと言わざるを得ない。
前記(ホ)(ヘ)のように、許可なく職場をはなれることは、勿論職場離脱で職場規律を乱すものと言うべきも、前記のように給料遅配及びこれについて従業員を納得せしめるに足る何等の措置もとられなかつた事情の下においては、従業員が職場大会を開き工場幹部との交渉を決議したり、その家族が会社に陳情する等のことがあつても、事情酌むべきものがあると言うほかなく、かような場合前記のように職場委員たる債権者B、J、G、M等が決議に従つて職場をはなれ交渉に赴いたり、職場をはなれて家族のため交渉の便をはかるは、勿論当然のこととは言えないが、察すべき点もあり、特に従業員や家族を煽動して右の結果を来したことの疏明のない限り、これをもつて、前記基準に該当せしめるは酷に失し、その当を得ないものとなすほかない。前記疏明資料によれば債権者C、Tは職場委員ではないが、従来執行委員または婦人部役員として組合活動をして来た婦人であつて、家族の交渉に一般の関心を寄せることは、察せられるところもあり、前記事情の下においてはこれを前記職場委員と区別して、前記基準に該当するとなすには、酷に失しその当を得ないものと考えざるを得ない。
(乙) 工場秩序を乱すものとの基準を除くその余の基準について、前記工場秩序を乱すものとしての事実を除くその余の基準該当の事実につき、成立を認め得る乙第十号、第十九号の一乃至六、第二十号の一乃至二十一、第二十二号の一乃至四、同号の五の(イ)乃至(ヘ)第二十四号、第四十三号(前記のように必ずしも心証を惹起し難い部分もあるが)及び証人a、同bの各証言と成立を認め得る甲第十乃至第四十号第五十三号乃至第五十八号及び債権者各本人(債権者Qを除く)の訊問の結果を綜合すれば、次のとおり一応認めることが出来る。
(一)、A、B、M、H
債務者は右債権者らにつき別紙第二表のように基準に該当するものと主張し、同人らについての工場秩序を乱すものとしての事実については、前記のとおりであるが、これを除いて業務縮少のため配置転換困難なる者、職務怠慢技能低位、経営効率に寄与する程度低き者として等の事実につき前記疏明資料を案ずるに「Aが工作課第四職場の仕上組立工でブロツク長であり、今囘の整理において同職場の仕上組立工五十六名中九名が他の職場に転換し八名が整理されたこと、Aの作業能率を他と比較すると職場委員でありブロツク長であつた阿部盛二が昭和二十四年九月前チヤフカツター日産九十乃至百枚であつたのにAが五十乃至六十枚であつたこと。同年七月当時の報償金は、いずれも仕上組立工でブロツク長であつた高瀬要助は一級八二〇点、山口三太郎は一級八四〇点、阿部盛二は二級八三〇点に対しAは二級七一〇点であつたこと。B、Mはいずれも右第四職場タレツト工で、今囘の整理において同職場のタレツト工十四名中四名が整理されたこと、Bは技能は二級であるも技能の低い練木、奈良、越、西村等より作業能率が劣り同年七月中小川一五三%練木一八〇%であるのに、Bは八五%であり、獲得分数は小川一〇、七四九、練木一三、二六〇に対しBは四、五二七であつたこと、Mの作業能率は四九%であつたのに同人より技能の低い西村は八八%星野は八三%山本は一三二%であつたこと、Hは右第四職場のフライス工で、今囘の整理において同職場のフライス工二十一名中六名が整理されたこと、Hの作業能率は同級の高宮、伊藤、兼原に比し劣り報償金の採点も平均以下であつたこと」は一応これを認めることができるが、その他の事実は認めるに足る十分な疏明がない。而して前記乙第十号第十九号の一乃至六によれば、右第四職場においては、考課表における序列第百三十二位以下三十八名が整理されていること、Aと比較された右高瀬等はいずれも第三十五位以上であること、Bと比較された練木等はいずれも第七十位以上であること、Mと比較された西村等はいずれも第七十八位以上であること、Hと比較された伊藤等はいずれも第九十二位以上であることが認められるので、右事実によれば、右債権者らがその比較されたものより作業能率の低位であることは認めねばならないが、他の残留者より低位であることを認めるべき疏明なく、また技能についても考課表においてAは丙、Hは乙、Mは丁であるが、前記疏明資料によれば残留者中多数に右と同様の採点のものがあるので、考課表自体からみても右債権者らが残留者に比し技能低位であるとは為し難いものと言わねばならない。従つて考課表の記載のみを以て疏明あるものと為し難いこと前記の通りであるので、債権者らは、右事実につき前記基準に該当するものとなすは、尚疏明不十分と言わざるを得ない。
(二)、J、G
債務者は、右両名につき別紙第二表のように基準に該当するものと主張し同人等についての工場秩序を乱す者としての事実については、前記のとおりであるのでその余の会社事業に協力せざる者職務怠慢なるもの業務縮少のため適当な配置なきものとしての事実につき、前記疏明資料を綜合するに、「右両名は工作課第三職場のパツキング工であつて、パツキング作業は整理後はブロツク長大塚秀夫と山本稔の両名をもつて足る事情にあること、Jの獲得分数は右山本に比較すると昭和二十四年七月四四%、八月六〇%、九月三一%であつたこと、Gの獲得分数は右山本に比較すると同年七、八月いずれも約二分の一であつたこと」を一応認めることができるが、その他の事実はこれを認める十分なる疏明がない。而して右債権者両名が、右大塚、山本に比し獲得分数の少ないことは、特段の事情が疏明されない限り、技能低位、会社業務に対する非協力、職務怠慢のいずれかによるものであることは一応認められ、またパツキング工を二名とする限り右債権者両名が右職場に止り得ないことは認めざるを得ないが、以上の事実から右両名が第三職場の他の職種の残留者に比し、会社業務に協力せざるもの、職務怠慢なるものとなすには疏明が足らず、更に前認定のように現に配置転換のなされた事実に照せば右両名が他の残留旋盤工に比し会社業務に協力せざるもの、職務怠慢なるものとの疏明がなく、考課表の記載のみをもつて疏明ありと為し難いことは前記の通りであるから、右債権者両名を前記基準に該当するものとなすには疏明の足らないものと言うほかない。
(三) N
債務者は、右債権者につき別紙第二表のように基準に該当すると主張し、債務者提出の前記疎明資料によれば、職務怠慢なる者業務縮少のため適当な配置なきものとしての事実があげられているが、右疏明資料と債権者提出の前記疏明資料を綜合すると、「Nは昭和二十三年頃より研磨工であり工作課第三職場に属し技能は一級であつたが社内工具の刃研の仕事をしていたこと、同職場においては今囘の整理において研磨工二十三名中九名が整理されたこと、Nは昭和二十三年三月頃工作課長より転換を求められたのにこれに応じなかつたこと、工具の刃研につき再研磨を依頼されるようなことが多かつたこと」は一応これを認め得るが、Nが他から嫌遠され刃研がおくれ勝で作業についていることの少なかつたことについては、これを認めるに足る十分な疏明がない。而して、右事実によれば、Nの勤務ぶりに多少非難さるべき点のあることはうかがわれるも、残留研磨工との比較において優劣如何はこれを明にする疏明がないので、Nをもつて前記基準に該当するとなすに由ない。尤も前記考課表によれば一応右事情を窺知し得ると雖も同表記載の序列、総評等をそのまま措信し得ないことは前記の通りであり、他の項目につき残留研磨工との比較をなす疏明なきをもつて、これをもつて右事情の疏明ありたるものとなすを得ない。
(四)、F
債務者は、右債権者につき別紙第二表のように基準に該当すると主張し、工場秩序を乱すものとしての事実については前記のとおりであり、その余の会社業務に協力せざるもの等の事実につき前記疏明資料を綜合すると、「Fは工作課第二職場のフライス工でブロツク長であつたこと、フライス工は全工場で十二名整理され転換の余地のないこと」はこれを一応認め得るが、その他の事実はこれを認めるに足る疏明がない。而して右事実をもつて前記基準に該当せしめるに由なきことは明なところである。尤も前記乙第二十号の七の考課表において右基準に副う如き記載あるもこれのみにて直に基準に該当するものとなし得ないことは前記の通りである。
(五)、E、Q
債務者は、右両名につき別表第二表のように基準に該当すると主張し、前記疏明資料において、会社業務に協力せざるもの、職務怠慢なるもの等の事実をあげているのであるが、前記疏明資料を綜合すると、「Eは工作課第一職場の旋盤工で技能二級で、今囘の整理において同職場の旋盤工は四名整理されたこと、昭和二十四年四月欠勤防止の対策がとられ課長職場長より注意があつたのにEは五月より七月までの間十四日以内の休暇を全部とつた上十一日の欠勤をしたこと、Eの責任分数は七千分であつたのに常はその七〇乃至八〇%を獲得するに過ぎず同職場の職場委員であつた那須、丸山、林田の獲得分数が約一万分であるのに比し約二分の一であつたこと、Qは昭和二十四年四月検査工より転換し右第一職場に属した旋盤工で技能は二級であるのに転換者なるため三級扱として責任分数二千分とされており、実積は四千分であつたが、他の転換者はいずれも五千分以上で転換者六名中の最低位であつたこと、同人は昭和二十四年四月以降九日の欠勤をしていること」は一応これを認め得るがその他の事実はこれを認めるに足る疏明がない。而して前記乙第十号によれば、右林田が職務怠慢なるものに該当するとされているのでEについては当然これに該当する如くであるが、前記乙第十号第十九号の二により那須、丸山が林田と同一獲得分数であるのに解雇されていない事実に照せば獲得分数のみをもつても職務怠慢を決するには疏明不十分と言うほかなく、欠勤日数の点は前記疏明資料により認められるように、右Eの病母の看病、治療代を得るための内職等によるためであること及び特に同人につき事故欠勤多き者なる基準を適用しなかつた事実に照せばこれをもつて直ちに会社業務に協力せざるものとなすのはその当を得ざるものと言わざるを得ない。Qについては、右事実をもつて、技能低位なるものとなすには、疏明足らざるものと言うべく、なお欠勤日数をもつて、事故欠勤多きもの、会社業務に協力せざるものとなすには、他の残留従業員との比較についての疏明が十分でなく、また考課表において同人の勤怠は甲下となつていることから考えると結局疏明が足りないと言うほかない。従つて、右債権者両名については考課表の記載のほか疏明がなく、これらのみをもつて疏明ありとは為し難く、結局右両名を前記基準に該当せしめるに足る疏明の足りないものと言うほかない。
(六)、C、T
債務者は、右両名につき別紙第二表のように基準に該当するものと主張し、工場秩序を乱すものとしての事実については前記のとおりであるので、その余の配置転換困難なるもの経営効率に寄与する程度低きもの等としての事実につき、前記疏明資料を綜合すると、「Cはもとトレース工であつたが昭和二十四年五月より検査工に転換し技術課検査係に所属していたこと、昭和二十四年十月従来の検査係を廃し検査工は直接各職場に附属せしめられることになり、従来五十四名であつた検査工が三十三名に減ぜられたこと、Cは同年十月より前記第四職場の検査工となつたが、今囘の整理において同職場の検査工は十一名より七名に減ずることになつたこと、Tは昭和二十二年九月検査工として入社し検査事務所運転検査記録係に勤務したが昭和二十四年十月よりは、前記第四職場に属し検査事務処理をしていたこと今囘の整理においては検査事務所を事実上解散し検査事務担当者を大巾に整理したことは一応認められるが、Cが職場をはなれることが多く未検査の部品が山積する状態であつたこと、その他の事実はこれを認めるに足る疏明が十分でない。なお、C、Tは同職場に残つた検査工小塚靖夫、布施藤衛、浅見栄吉、浜田忠夫、榎本賢吉の五名に比し技能経験において格段の差異があるとの疏明資料(乙第二十二号の三、四)があるが単に考課表の記載を引用するに止るものと思われ、心証を惹起するに由ない。従つて前記考課表記載のほか疏明がなくこれのみをもつて疏明ありとは為し難いこと前記のとおりで右債権者両名を前記基準に当るものとなすには疏明が足りないものと言うほかない。
(七)、K
債務者は右債権者につき別紙第二表のように基準に該当すると主張し、債務者提出の前記疏明資料によれば、配置転換困難なるもの、経営効率に寄与する程度低きもの等の事実をあげているが、これと債権者の提出する前記疏明資料を綜合すると、「同人は営業課製品倉庫において製品または部品の伝票、元帳、月報作成、梱包等の事務をとつていたこと、今囘の整理によつて記帳も簡素化され梱包も得意先もちとなつた結果従来製品倉庫係六名を戸室政治外一名の二名に減少し営業課としては二十六名を十三名に減じたこと、これら二名はいずれもKより先輩であること、一般事務関係従業員は約五十%整理された営業課において整理された真崎、槌谷、小田、大浦、島田等に比しKは学歴経験ともに劣つていたこと、Kは昭和二十四年十月二十五日において同年八月二十五日迄の伝票を整理していたに過ぎないこと」が一応認められるが、その他の事実はこれを認めるに足る疏明がない。而して右事実と考課表(乙第二十号の一)の記載と対照すると、その記載はあながち根拠のないものとは言えず、前記乙第十九号の六と併せ考えると、右債権者は営業課及び製品倉庫係において残留している者に比し劣つていたものと認めざるを得ないのであり、前記のように人員整理が已を得ないと認められる以上、かような事由で解雇されることも已を得ないと言わねばならないから、右債権者を基準(8)(9)(10)に該当するものとなすは已を得ないところと言わねばならない。
四、進んで、債権者らの主張する不当労働行為の点について判断する。
(一) 前記疏明資料によれば、債権者A、B、H、M、J、G、F、E、Q、C、Tらが、組合執行委員、職場委員或は婦人部役員として、日頃活溌な組合活動をなし殊に前記給料遅配の下においては、保証給の要求、遅配の解消等につき会社に対し強力執拗に交渉し、結束して行動すること多く従業員に対し強い影響力をもつていたことが、うかがわれるところ、
(い) 会社は、債権者J、G、F、E、Q、C、Tにつき、前記のように基準に該当するものとして解雇の意思表示をなしたが、これが、いずれも既に判断したように基準に該当しないものと認められる以上、このことと右債権者らの活動並びに前記疏明資料を綜合すると、会社が本件人員整理を機会に右債権者らの前記活溌なる活動を事由として右解雇をなしたものと一応推認されても已を得ないところと言わねばならない。然れば、右債権者らに対する解雇の意思表示は労働組合法の第七条に違反し、その効力を生じないものと断ぜざるを得ない。
(ろ) 会社は、債権者A、B、H、Mにつき前記のように基準に該当するものとして解雇の意思表示をなしたが、前記乙第二十号の一乃至二十一及び弁論の全趣旨に徴すれば会社が同人らにつき「工場秩序を乱すもの」との基準を最も重要視していたものと見られ、前記のように、同人らがこの基準に該当するものと判断され、それだけでも解雇に値する事由と認められる以上一応これをもつて解雇の主たる動機としたものと推認するほかなく、他に疏明のない限り、たとい前記のように組合活動をしていても、右推認を排除して同人らにつき会社の不当労働行為の意思を推測するに由なきものと言わねばならない。従つて右債権者らの不当労働行為の主張は採用することができない。
(二) 債権者N、Kについては、前記疏明資料によるも、注目されるほどの組合活動をしていた事実は認められないので会社の不当労働行為の意思を推測するに由なく、他にこれを認めるに足る疏明がないので、同人らの不当労働行為の主張は採用の余地がない。
五、然れば、債権者J、G、F、E、Q、C、Tに対する前記解雇の意思表示はその効力を生ぜず、同人らは会社の従業員であり、その後前記のように債務者会社に雇傭関係が承継されて現に債務者会社の従業員たる地位を有するものと言わねばならない。債権者A、B、H、M及びKについては、いずれも前記のように解雇基準に該当し、それだけで解雇に値する事由と認められるので、同人らに対する解雇の意思表示は期限の到来をもつてその効力を生じ、同人らは会社の従業員たる地位を喪つたものと言わねばならない。債権者Nについては、同人が会社の発表した解雇基準に該当することの認められないことは、前記のとおりである。およそ、具体的解雇に際し一般従業員に対し解雇基準が明示された場合においては、使用者が右基準と全然無関係に、または右基準を専恣不合理に適用することは、解雇基準を定めた目的を没却せしめるものと言わねばならない。従て、一般に、具体的解雇に際しその解雇権の行使につき一般従業員にその基準を明示するときは、使用者としては解雇基準に該当するもののみを解雇する趣旨を明にしたもので、その限りにおいて使用者自ら解雇権を制限したものと解せられ、使用者が一方的に制定した就業規則に自ら拘束されるごとき効力と実質的に区別すべき理由がなく、その効力は労働条件に関する基準を示した企業内における一規範と解すべきであるから、この基準に該当しない場合の解雇の意思表示はその効力を生じないものと考えざるを得ない。従つて債権者Nに対する前記解雇の意思表示はその効力を生ぜず、同人は前記のように会社の従業員たる地位を喪わずその後承継されて現に債務者会社の従業員たる地位を有するものと言わねばならない。
第五
前記J、G、N、F、E、Q、C、Tらが債務者会社を唯一の職場とし、その賃金によつて生活を維持していることは、前記疏明資料によつてこれを推認し得るところであり、かような事情のもとにおいては、特段の事情のない限り、解雇が無効であるに拘らず、本案判決の確定にいたるまで、解雇せられたものとして賃金の支払その他従業員としての待遇を停止されることは、甚しい損害であり精神的苦痛も甚大であることは、一応認めざるを得ないところである。なお、債務者は、仮処分取消の事由を主張して、本件仮処分の許すべからざることを主張するので、この点の判断をする。
債権者らのある者が昭和二十五年六月三十日当裁判所の仮処分決定によつて、仮に従業員たる地位を認められ、会社に復帰した後、ビラの配布等により活溌な政治活動をなし、出勤率も他の従業員に比し不良であることは、前記疏明資料と成立を認め得る乙第三十九号第四十号の一乃至九第四十二号の一乃至十二を綜合すれば、一応これを認めることができ、これが会社乃至は債務者会社の業務運営に影響を与えていることは窺知し得ないわけではないが、これがため債務者に民訴七百五十九条の特別事情と認められるような甚大な損害を与えているものとするには疏明が足りないものと言うほかない。
債権者らが考課表を謄写して従業員に配布したことを理由として、会社が債務者の主張のように、債権者らに対し本案訴訟において会社が敗訴しその確定することを停止条件として解雇の意思表示をなしたことは当事者間に争のないところである。而してかような意思表示が右債権者らの雇傭関係を将来消滅せしめる場合のあることは首肯し得られるが、右本案訴訟において会社或は債務者が敗訴しその確定したことの疏明のない限り右解雇の意思表示はその効力を生ぜざることは明で、これをもつて債権者らの被保全権利が前記決定後消滅したものとなすを得ないことは勿論である。従つて、前記意思表示をもつて右趣旨での事情変更となすを得ないことは言うまでもない。債権者らが本案訴訟において勝訴し確定すれば、前記解雇の意思表示が効力を生ずることは、勿論であるが、これは、本案訴訟が会社の敗訴に確定後改めて解雇の意思表示をなす場合と異るところなく、この場合においては仮処分はその目的を達しその必要がなくなるものであるが、それは本案訴訟の判決確定によるもので、解雇の意思表示の有無によるものでないことは明であるから、これをもつて本件仮処分の必要性を左右するものとは言えない。
債務者は、本件仮処分において被保全権利としている権利が、本案訴訟において確定された場合に直に解雇の意思表示によつてその権利が消滅するから、かように消滅する権利については仮処分の必要性がないとなすが如くであるが、被保全権利が期限の到来によつて消滅するような場合においても期限の到来までは、即ち消滅までは、期限の長短とは別個に仮処分の必要性を判断すべきものと考えられることにかんがみれば、債務者の右主張は採用するに由ない。
第六
然らば、債権者J、G、N、F、E、Q、C、Tについては、同人らが現に債務者会社の従業員たる地位を有し、雇傭関係を有すること及び仮処分の必要性の疏明があるものと言うべきをもつて、その仮処分申請を認容して、仮に同人らが債務者会社の従業員たることを定めるべく、その余の債権者A、B、H、M及びKについては、同人らが現に債務者会社の従業員たる地位を有することの疏明を欠くをもつて、その余の点につき判断するまでもなく同人らの仮処分申請は理由なしとして却下すべきものであるので、前記決定中、債権者J、G、N、F、E、Q、C、Tに関する部分は認可すべきところ右決定後債務者が交替したので主文の通り変更すべきものとし債権者A、B、H、M、及びKに関する部分は取消しその申請を却下し民事訴訟法第八十九条第九十三条第九十五条第七百五十六条の二に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 脇屋寿夫 三和田大士 緒方節郎)
第一表、第二表<省略>